<胆石症>
Cholelithiasis



診断のポイント

 胆石症は胆石の存在部位により,胆嚢胆石症,総胆管胆石症,肝内胆石症と呼称される.胆石はその組成からコレステロール石と色素石に大きく分類され,後者にビリルビンカルシウム石と黒色石があり,それぞれ成因が異なる.症候の分析と画像検査,とりわけ超音波の応用が診断のポイントとなる.胆石症の治療方針は,胆石の存在部位と胆石の種類(成因)により異なる.胆嚢結石症や肝内結石症では,胆嚢癌や胆管癌の合併に注意する.


【1】病歴聴取
@心窩部を中心とした疝痛発作(いわゆる胃痙攣)が典型的である.これに背部のBoas点(第10胸椎の高さで脊柱より右2〜3cmの部位)の疼痛を伴えば胆石痛の可能性が一層高まる.
A発熱は悪寒を伴うか否かを聴取することが肝要である.悪寒を伴う発熱発作は胆管胆石症に伴う急性胆管炎の徴候である.急性胆嚢炎では悪寒を伴うことは少ない.
B胆石症の黄疸の多くは一過性である.痛みに伴ってウーロン茶様の尿濃染がみられたかを聴取する.胆石が十二指腸へ自然脱落した診断の決め手となりうる.

【2】生化学的検査
@痛みに伴って胆道系酵素(ALP,LAP,γ‐GPT)の上昇をみれば,胆管内の胆石の存在を強く疑う.
A胆石がOddi括約筋部に嵌頓すると急激な胆管内圧の一過性上昇を招き,このため肝酵素(AST,ALT)が血中に逸脱して異常高値(1,000〜2,000IU/l)を示すことがある.急性肝炎と誤診しないことが肝要である.

【3】画像検査
@超音波検査が胆石症診断の主軸をなす.非嵌頓の胆嚢胆石および肝内胆石はほぼ確実に検出される.総胆管胆石は約50%にとどまる.CTはコントラスト分解能に優れ,胆石のカルシウム含有量が1%以上であればhyperdenseを示す.非石灰化コレステロール胆石の選別や胆嚢頚部嵌頓の石灰化胆石の検出に応用される.
A経口胆嚢造影(OCG)は浮遊胆石の診断に,経静脈性胆道造影(IVC)や内視鏡的逆行性胆道造影(ERC)は総胆管胆石の検出に用いられる.経皮経肝的胆管造影(PTC)はERCと併用して肝内胆石症の精密診断に応用される.


症候の診かた

【1】上腹部痛:心窩部を中心に重圧感程度にとどまるものから七転八倒する高度のものまでさまざまである.一般に胆嚢頚部に嵌頓した大胆石よりも胆嚢から胆管へ移行しOddi括約筋部に嵌頓した小胆石のほうが痛みの程度は強い.発作は夕食後から就寝後2時間ほどの時間帯に好発する.痛みは30分以上持続し,2〜3時間で治まるものが多い.しばしばBoas点の痛みも伴う.

【2】悪心・嘔吐:高度の疝痛(内臓痛)時に自律神経症状の1つとして発生する.嘔吐の動作は腹腔内圧を大きく変動させるので,嵌頓した胆石の移動に役立ち,嘔吐後痛みが軽減することが少なくない.

【3】悪寒あるいは悪寒・戦慄を伴う発熱発作:菌血症の症候で,急性胆管炎の診断上,きわめて重要である.これは胆管炎の炎症の場が胆管内腔であり,胆管圧亢進状態においてエンドトキシンなどの発熱物質が胆道系から肝臓を介して一気に血中に放出されることによって生じる.炎症の場が胆嚢壁内に限局する急性胆嚢炎では悪寒症状を伴うことは少ない.

【4】尿濃染:腹痛を伴う尿濃染は,胆管へ移行した胆嚢内胆石(胆嚢管を容易に通過できる径2〜3mmの胆石,とくに比重の軽いコレステロール石)がOddi括約筋部に嵌頓したか,高齢者では胆管胆石(主にビリルビンカルシウム石)の嵌頓を疑う.

【5】触診所見:無痛性の腫大胆嚢は胆嚢水腫を,有痛性では胆嚢蓄膿を疑う.高度の急性胆嚢炎は筋性防御を,軽度ではMurphy胆嚢症状を呈する.


検査とその所見の読みかた

【1】一般臨床検査:胆石症に伴う胆汁うっ滞は血清ビリルビン値や胆道系酵素の上昇のほかに,トランスアミナーゼ値の一過性の上昇に着目する.胆石の十二指腸への逸脱では1週間ほどで正常値に近づく.

【2】超音波検査:胆石の存在,量(数・大きさ・体積),質(構造・組成)のすべての情報が得られる.また胆嚢壁,スラッジ,胆汁うっ滞,病変の広がりに関する情報など.

【3】腹部単純撮影:高度石灰化胆石(CT値180〜200HU以上),陶器様胆嚢,石灰乳胆汁,Mercedes‐Benz徴候を示す含気性胆石,気腫性胆嚢炎,胆道ガス像(pneumobilia)の診断.

【4】CT:腹部単純撮影であげた項目のほかに,微細な胆石石灰化の診断(胆汁酸溶解療法の適応の決定に必須)に有用.

【5】胆道造影:OCG,ERC,PTCはそれぞれ診断上の特徴を有する(前述).IVC(ヨウ素過敏症に注意)はERCの出現後,用いられる機会は少ない.ERCやPTCの手技は胆石除去,炎症の鎮静化,減黄術などの胆石治療に応用され,かつ信頼性が高い.


確定診断のポイント

【1】胆石の存在診断:胆嚢胆石と肝内胆石の存在は超音波検査によりほぼ確実に診断できる.総胆管胆石の超音波による診断率は半数にとどまり,胆管拡張所見や炎症,胆汁うっ滞などの症候から胆石の存在を疑い,CT,さらにERCにて確定する.胆石の十二指腸への逸脱の診断は,疝痛発作,生化学的検査,ERC施行時の発赤を伴う大十二指腸開口部の亀裂所見などから総合的に判定.

【2】胆石の質的診断:超音波画像を基本とし(後述),腹部単純撮影,CTやOCGを加えて判定.


予後判定の基準

【1】無症状胆石症
@大胆石(径10mm以上)で胆嚢体部から頚部にかけて屈曲変形を認めない場合は,無症状で経過する可能性が大きい.
A小胆石で黒色石と診断された場合は,無症状で経過する可能性が大きい.

【2】有症状胆石症
@胆石が胆嚢頚部に嵌頓して生じた胆嚢水腫は無症状で経過する可能性が大きい.
A胆石が胆嚢頚部に嵌頓して生じた緊満不良胆嚢で,胆嚢壁に浮腫所見(超音波によるsonolucent layer)を認めない場合は無症状化する可能性がある.一方,浮腫所見を認める場合,多くは胆石痛を繰り返す.

【3】硬化性胆管炎・胆管狭窄
@弾性の低下した胆管は胆汁うっ滞をきたしやすく胆石の再発につながりうる.
A肝内胆石で肝内胆管狭窄を伴う場合は,胆石除去が難しく,かつ胆石は再発しやすい.


合併症・続発症の診断

【1】急性胆嚢炎:自他覚所見とともに超音波で診断は確定(胆嚢腫大,sonolucent layerを伴う胆嚢壁の肥厚,超音波映像下での胆嚢の圧痛の証明).胆嚢外への炎症の波及は超音波とともにCTが有用.

【2】胆嚢癌:超音波による胆嚢壁の隆起・不整肥厚.造影CTによる血流状態の把握.細胞診など.

【3】胆嚢壁の石灰化(胆嚢癌の危険因子):CTが有用.

【4】Mirizzi症候群:大胆石の頚部嵌頓に急性胆嚢炎を合併し,胆石による胆管の機械的圧迫と炎症の波及により胆管狭窄をきたして胆汁うっ滞を生じる病態.PTC,ERCが病態の把握に有用な診断法.

【5】急性胆管炎:悪寒を伴う高熱発作と超音波による胆管拡張の証明で強く疑う.

【6】急性膵炎:Oddi括約筋部共通管での胆石嵌頓で発症.


治療法ワンポイント・メモ

【1】胆汁酸溶解療法:CT非石灰化多数個コレステロール石(混合石)患者にUDCA(600mg就寝前1回)を投与し,著効をみる.とくに浮遊胆石(疝痛発作を伴うことが多い)の完全消失率はほぼ100%.溶解に要する期間は胆石径1mmに対しておよそ1カ月として計算し,患者に予測期間を示し服薬コンプライアンスの維持に努める.胆石の再発が問題.

【2】体外衝撃波破砕療法(ESWL):1個の純コレステロール石に著効を示す.胆管胆石のうち内視鏡的治療単独では困難なdifficult stone(径20mm以上,あるいは積み上げ型胆石)および肝内胆石のうちコレステロール石に応用し,少ない苦痛で好結果が得られる.

【3】内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST):confluence stoneなどの治療困難例を除きほとんどの胆管胆石の除去に利用される.Billroth U法による胃切除例は困難.

【4】経皮経肝的胆石除去術:肝内胆石のうちビリルビンカルシウム石が主な治療対象となる.

【5】外科手術:腹腔鏡下胆嚢摘出術が主流である.胆管損傷や血管損傷などの合併症の回避がポイント.


手術適応のポイント

【1】胆嚢胆石症:胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎,Mirizzi症候群,胆嚢壁の隆起・不整肥厚を認め胆嚢癌合併が疑われる場合,陶器様胆嚢(胆嚢壁の部分石灰化も含む),急性膵炎合併例など.

【2】胆管胆石症:confluence stoneなど.

【3】肝内胆石症:肝左葉に限局し,高度の硬化性胆管炎(左葉萎縮)を伴う例では外側区域切除など.肝内胆管癌を合併する危険もあるため.


◆治療方針

A.胆嚢結石症
 胆嚢結石症は現在コレステロール石が80%近くを占め,ついで黒色石,ビリルビンカルシウム石が多い.成因は異なるものの胆嚢が結石形成の場であることから,有症状であれば胆嚢摘出術が適応となる.無症状でも結石充満例など胆嚢が機能していない時や壁の観察ができない時は手術を勧める.また,無症状胆石を10年以上放置すると30‐50%で症状が出現する可能性や胆嚢癌合併の可能性などを説明し,患者が手術を希望した場合は胆嚢摘出を施行する.胆嚢摘出後症候群の存在も念頭に入れておく必要がある.

1.腹腔鏡下胆嚢摘出術 急性胆嚢炎やMirizzi症候群,上腹部手術既往などを含め,現在では98%が腹腔鏡下胆摘で治療が完遂できている.胆道系には胆嚢管や区域肝管の走行異常があり術中胆道損傷をおこさないことが肝要である.超音波,血液生化学検査などで総胆管結石合併の有無を検索する.MRCP,ERC,術中胆管造影などで結石遺残や胆管損傷を防止することが重要である.
a.急性胆嚢炎,Mirizzi症候群 急性胆嚢炎の場合は発症後早期に腹腔鏡下胆嚢摘出を行うか,または抗生物質投与か経皮経肝胆嚢ドレナージを行い炎症の消退を待ってから手術する.Mirizzi症候群の場合は胆嚢癌や胆管癌と鑑別する.急性胆嚢炎やMirizzi症候群で胆嚢管が造影されずCalot三角部に高度の炎症が想定される時は,ENBD tubeを挿入し,直接胆管造影下に操作部位を確認しながら手術を進める.脈管の解剖が同定できない場合は胆嚢を一部残し,胆嚢管側を処理し胆嚢部分切除後残存胆嚢粘膜を焼灼する.
b.上腹部手術既往 創から離して直視下にポートを挿入,腹腔鏡を入れ腹腔内の癒着を確認し,5mmのポートを癒着のない部位から追加し癒着剥離を行うことで腹腔鏡下手術は可能である.しかし,高度癒着例では開腹への移行もあり,術前患者に了解を得ておく.

2.開腹胆嚢摘出術 他臓器癌合併例,胆嚢癌の合併を疑う場合,および炎症や癒着が高度で腹腔鏡下で操作続行が不可能な場合に選択する.

3.胆石溶解療法,体外衝撃波胆石破砕療法(ESWL) 胆嚢が温存されるが,胆石再発の可能性がある.


B.総胆管結石症および胆嚢総胆管結石症
 総胆管結石症に対しては,従来開腹による総胆管切開切石術とTチューブドレナージが一般的であったが,近年では内視鏡的乳頭切開(バルーン拡張)切石術,腹腔鏡下の経胆嚢管的切石術や総胆管切開切石,経皮経肝胆道鏡下切石術など,下から,前から,上からの3方向から総胆管結石症にアプローチでき,病態に応じた治療法が選択できるようになった.急性閉塞性化膿性胆管炎を伴う場合は緊急の胆道減圧ドレナージが必要である.

1.内視鏡的乳頭切開術またはバルーン拡張術 胆嚢無石例や胆嚢摘出後の原発性総胆管結石症に対して内視鏡的乳頭切開(EST)後切石を行う.乳頭機能の温存をはかる場合はバルーンで乳頭を拡張し切石する.胆嚢総胆管結石症では術前に内視鏡的乳頭切開またはバルーン拡張による切石後,腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う.EST治療後10年以上経過観察例の胆管結石再発率は12%ですべてビリルビンカルシウム石であったことから,乳頭バルーン拡張術の遠隔成績との比較が今後の課題である.

2.腹腔鏡下総胆管切石術 胆嚢総胆管結石症の場合,腹腔鏡下胆嚢摘出術と同時に経胆嚢管的または総胆管切開下に胆道鏡下で切石する.総胆管結石の数が2‐3個で,かつ前者は胆石径が小さく径胆嚢管的に取り出せる場合,後者は総胆管に拡張を認める場合によい適応となる.切石後はCチューブを経胆嚢管的に総胆管下部まで留置し術後遺残結石に対処する.乳頭に異常がない胆嚢からの落下胆管結石はできるだけ乳頭機能を温存する.

3.経皮経肝胆道鏡下切石術(PTCSL) 経皮経肝胆道ドレナージが施行された場合はその瘻孔を拡張し,胆道鏡下に電気水圧結石破砕装置(EHL:electrohydraulic lithotripsy),バスケットカテーテル,mechanical lithotriptorなどを用いて切石する.

4.開腹手術,ESWL 鏡視下切石が不可能な場合は従来のように開腹する.ESWLにて切石している施設もある.


C.肝内結石症
 肝内結石症は,現在全胆石症中1.7%とまれな疾患であるが,遺残結石や結石再発,胆管炎を繰り返すと肝硬変や肝不全に陥る難治性疾患である.現在肝内型が50%近くに増加し,胆石の種類もビリルビンカルシウム石が依然75%と優位を占めるが,コレステロール石が13%を越えるようになってきた。また,肝内結石症では胆管癌の合併を5‐10%に認める.治療は肝切除かPTCSLが主要な治療法である.

1.肝切除術 肝切除は,片葉または区域に限局し(右葉の場合は肝萎縮を認める),肝切除で残存肝に胆管狭窄や結石が遺残しない場合,肝内胆管癌の合併を疑う場合,およびPTCSLによる治療が不可能な場合に適応としている.原則として胆道再建術は施行しない.

2.PTCSL 結石の種類や存在部位を含めた病型分類や胆管粘膜の精査が可能で,診断から治療へと流れることができる.両葉型で両側肝内胆管に狭窄を認める場合は,PTCSチューブかballoon dilatorで拡張を行い,左右から対向式にEHLなどを用いてPTCSLを行い,完全切石と胆管狭窄の解除をめざす.肝切除後遺残結石に対する補助療法としてPTCSLを用いることもある.

3.その他の治療法 肝門部胆管にのみ狭窄解除が不可能な胆管狭窄がある場合には肝門部胆管形成による胆道再建を,乳頭部の狭窄や機能不全による,いわゆる積み上げ型の肝内結石症で肝側上流胆管に狭窄を認めない場合はESTか胆管切開切石術または胆道再建術を行う.ESWLで切石している施設もある.


●患者説明のポイント
・胆嚢結石症の場合は胆嚢癌の合併の可能性,腹腔鏡下から開腹への移行の可能性や無症状胆石を放置した場合の起こりうる病態を説明しておく.
・肝内結石症では胆管癌の合併,繰り返す結石再発や胆管炎は最終的には高度の肝障害を惹起するので,初期に完全切石と胆管狭窄解除の必要性を説明しておく必要がある.