<糖尿病>
Diabetes Mellitus(DM)



 糖尿病は,いくつかの遺伝素因と生活習慣(運動不足,過食,高脂肪食)などの環境要因が重なって,インスリン作用の相対的不足を生じるため高血糖が持続し,そのため特有の細小血管症(腎症,網膜症,神経症)を生じる疾患で,動脈硬化も促進する.糖尿病患者の数は,この30年間で30倍以上に増加し,現在では700万人以上に達すると推定されている.これに伴い糖尿病合併症でQOLが著しく損なわれる患者数も急増している.糖尿病合併症の発症,進展は血糖のコントロールによることが明らかであり,よりよい血糖コントロールを達成するためにも病態に則した治療を行わなければならない.個々の糖尿病患者で遺伝素因と環境要因,インスリン分泌不全とインスリン抵抗性という2つの観点からその病態を評価し治療することが重要である.


◆治療方針

A.診断

1.糖尿病の診断 欧米における改訂を受けて,1999年,わが国の糖尿病の分類と診断基準が改められた.新しい分類では,インスリン依存型糖尿病(IDDM),インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)という分類を廃止し,より成因を重視した1型,2型,その他の特定の機序,疾患によるもの,妊娠糖尿病の4つに大別した.新しい診断基準では,空腹時血糖の基準値を140mgから126mg/dl(静脈血漿値)に引き下げた.これは国際的な整合性を重んじたことと75g経口糖負荷試験(OGTT)における2時間値200mg/dlに対応する空腹時血糖値がほぼ126mg/dlであることが日本人のデーターで示されたことによる.すなわち,新診断基準では,
@空腹時血糖値≧126mg/dl,75gOGTT2時間値≧200mg/dl,随時血糖値≧200mg/dlのいずれかが,別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断してよい.これらの基準値を超えても,1回の検査だけの場合には糖尿病型と呼ぶ.
A糖尿病型を示し,かつ, i)糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在, ii)HbA1c≧6.5%, iii)確実な糖尿病網膜症の存在のいずれかの条件がみたされた場合は,1回だけの検査でも糖尿病と診断できるとされた.

2.糖尿病の病型と病態の診断 次は,分類に従い病型と病態(病期)について診断する.すなわち,患者がどこに位置するかを診断する.紙面の関係でその詳細は省略するが,膵β細胞の破壊を示す各種自己抗体(膵島細胞抗体,抗GAD抗体など)の存在が1型糖尿病の診断には重要である.インスリン依存性を診断するためには内因性インスリン分泌能の評価が重要であり,尿中CPR量,グルカゴン試験が参考となる.すなわち,尿中CPR量が20μg/日以下あるいはグルカゴン1mg静注6分後の血中CPR値が1.0ng/ml以下であればインスリン依存性の状態でありインスリン治療が不可欠と考えられる.糖毒性によるインスリン分泌能の低下も考えなければならないので,血糖コントロールが改善してから再度内因性インスリン分泌能を評価することは,その後の治療方針を決定するうえで重要である.さらに,インスリン抵抗性の有無を診断することも重要である.インスリン抵抗性を簡便に推定する方法がないため,空腹時血中インスリン値やHOMA‐R:空腹時血中インスリン値(μU/ml)×空腹時血糖値(mg/dl)/403が用いられることが多い.いずれも空腹時血糖値が150mg/dl以下でグルコースクランプ法によるインスリン抵抗性とある程度相関が認められる.前者が10μU/ml以上,後者で3以上のときはインスリン抵抗性の存在を疑い,それぞれ15μU/ml,5を超えるときは明らかなインスリン抵抗性が存在すると診断してよい.糖毒性や膵β細胞の疲弊によりインスリン分泌能が低下するので,空腹時インスリン値やHOMA‐Rが低値を示してもインスリン抵抗性が存在しないということにはならない.肥満,高脂血症,高血圧,動脈硬化症の合併はインスリン抵抗性の存在を示唆する.さらに,網膜症,腎症,神経症,動脈硬化症などの合併症を評価する.


B.治療
1.基本方針 糖尿病治療の基本は,全身の細胞でのインスリン作用不足による代謝異常を是正することである.血糖値は,この代謝異常の程度を示す鋭敏な指標の一つである.したがって,他の指標,例えば高脂血症も正常化するように治療を行わなければならない.急性代謝失調(ケトアシドーシス,高度の脱水,随時血糖値350mg/dl以上)や重症の感染症などを伴わなければ,急激に血糖をさげる必要はない.病態を把握しつつ,食事,運動を含めた生活習慣の改善から始める.糖尿病治療の目標は,慢性合併症の発症,進展の阻止である。この観点から[表3]の「良」以上の血糖コントロールを目標とする.2‐3か月の生活習慣の改善により,この目標に達成できない場合は薬物療法を開始する.内因性インスリン分泌能が明らかに低下していればインスリン療法を,インスリン分泌能が十分であり,インスリン抵抗性の存在が推定されればビグアナイド薬かチアゾリジン誘導体を副作用に注意しつつ投与する.インスリン分泌能が低下していればスルホニルウレア薬を投与する.ただし,インスリン抵抗性の併存も疑われるときはビグアナイド薬かチアゾリジン誘導体の併用も考慮する.食後高血糖の認められるときは,α‐グルコシダーゼ阻害薬や速効型インスリン分泌促進薬を考慮する.内因性インスリン分泌能が高度に低下している場合には,血糖コントロールが必ずしも容易でない場合もあるが,少なくとも2型糖尿病では「良」以上の血糖コントロールをめざし,「可」では生活習慣を見直すとともに薬剤の増量なども考慮する.「不可」では直ちに生活習慣の厳重な見直しと治療方針の変更を考える.糖尿病の合併症の予防には,血糖値のコントロールのみならず肥満,高血圧ならびに高脂血症の管理も重要であり,糖尿病患者においてはBMI=20‐22,血圧130/85mmHg以下,総コレステロール140‐200mg/dl,中性脂肪120mg/dl未満(早朝空腹時),HDLコレステロール40mg/dl以上を目標とする.
2.薬物療法 糖尿病の治療において,食事療法,運動療法の占める役割は非常に大きい.その発症に生活習慣の関与が大きい症例では,食習慣を是正し運動療法を行うことによって,服用中の経口血糖降下薬が不要になることもまれではない.薬物療法がその本来の効能を発現するためには,食事療法,運動療法が正しく励行されることが必須である.軽‐中等度の糖尿病では自覚症に乏しく,食事療法,運動療法の必要性を理解させ励行させるのが難しいが,患者が自主的に「糖尿病を治療したい」という動機づけを行うことが最も肝要である.



C.経口血糖降下薬の適応と種類
 インスリン治療の絶対的適用例(後述)では禁忌となるので十分注意する.妊娠中または妊娠する可能性の高い女性には使用しない.基本的には,内因性インスリン分泌能がある程度以上保たれている症例が適用となり,いずれの薬剤も少量から始め,必要に応じて徐々に増量する.

1.インスリン分泌促進薬 スルホニル尿素(SU)薬と速効型インスリン分泌促進薬がある.両者とも膵β細胞SU受容体に結合してインスリン分泌を促進するので,両者の併用や2種類のSU薬併用は意味がない.SU薬は内因性インスリン分泌能のある程度低下している患者が,速効型インスリン分泌促進薬はインスリン分泌能は比較的保たれているが食後の追加分泌が低下している患者が適用になり,肥満者やインスリン抵抗性の明らかな患者への単独の第一選択薬とはならない.しかし,このような患者で,糖毒性や膵β細胞の疲弊のためにインスリン分泌能が低下している場合には,併用の適用となる.
 SU薬は6種類以上が発売されており,第1世代のトルブタミド(ラスチノン,ジアベン),アセトヘキサミド(ジメリン),第2世代のグリベンクラミド(ダオニール,オイグルコン),グリクラジド(グリミクロン)などがある.新しくグリメピド(アマリール)が発売されたが,これはインスリン分泌促進作用に加え,インスリン抵抗性改善作用もあるという.血糖降下作用はグリベンクラミドが最も強く,グリクラジド,トルブタミドの順である.SU薬による低血糖は,遷延して重篤化しやすいので特に高齢者や肝・腎機能障害者では十分注意しなければならない.速効型インスリン分泌促進薬として現在発売されているのは,ナテグリニド(スターシス,ファスティック)のみである.その血糖降下作用は急速であり,食前30分投与では低血糖の危険があり,毎食前10分以内に投与しなければならない.空腹時血糖降下作用は弱く,食後2時間値が250mg/dl未満の食後高血糖を呈する患者が最もよい適用となる.

2.インスリン抵抗性を改善する薬 ビグアナイド薬とチアゾリジン誘導体がある.前者は主に肝臓からの糖放出を抑制するインスリン作用を,後者は主に筋肉への糖取り込みを促進するインスリン作用を改善してインスリン抵抗性を解除する.したがって両者の作用は相加的であり,作用により血糖降下作用は増強される(ただし,この併用は保険未承認).インスリン抵抗性を示す患者への第一選択薬であるが,運動不足,過食,高脂肪食などの生活習慣の悪化はいずれもインスリン抵抗性を生じるので,この種の薬の投与の前には食事療法,運動療法の徹底を図る.
 ビグアナイド薬には,メトホルミン(メルビン)とブホルミン(ジベトスB)がある.体重の増加をきたさないが,時に消化器症状や食欲の低下を訴えることがある.副作用として乳酸アシドーシスが有名であり,腎機能低下者(Cr≧2.0mg/dl),過度のアルコール摂取者では禁忌である.チアゾリジン誘導体には,ピオグリタゾン(アクトス)がある.類薬に重篤な肝障害の報告があり,現在1回/月の肝機能検査が義務づけられており,検査結果をすぐに確認しながら診療を行うべきである.軽度の貧血,浮腫も報告されている.

3.糖吸収阻害薬 小腸粘膜に存在する二糖類分解酵素の作用を阻害するα‐グルコシダーゼ阻害薬が知られている.その結果,糖の消化吸収が遅延する.したがって200‐260mg/dl程度の食後高血糖を呈する患者がその適応となり,空腹時の血糖低下作用は弱い.作用機序が異なるため他の経口血糖降下薬やインスリン製剤と併用して用いられる.α‐グルコシダーゼ阻害薬としては,アカルボース(グルコバイ)とボグリボース(ベイスン)が発売されている.必ず食直前に服用するように指導することが重要である.副作用として,腹部膨満感,放屁,下痢などがあるが,低用量から始めることにより軽減できる.高齢者や腹部手術の既往のある患者ではイレウスなどに注意する.重篤な肝障害の報告があるので肝機能に留意しながら使用する.低血糖を単独投与で生じることはないが,併用時には生じうる.この際は,砂糖でなくブドウ糖⇒を投与しなければならない.

4.経口血糖降下薬投与の実際
a.空腹時血糖値<140mg/dlかつ食後2時間値 200‐260mg/dlの症例
処方例 下記のいずれかを用いる
1)グルコバイ錠(50mg)3錠 または
 ベイスン錠(0.2mg)3錠 分3 食直前
2)スターシス錠(90mg)3錠 または
 ファスティック錠(90mg)3錠 分3 食直前

b.空腹時血糖値140‐220mg/dlかつインスリン抵抗性が存在する症例
処方例 下記のいずれかを用いる
1)ジベトスB錠(50mg)3錠 分3 毎食後,または
 メルビン錠(250mg)3錠 分3 毎食後
2)アクトス錠(30mg)1錠 分1 朝食後
 4‐8週後,効果が不十分であれば
3)オイグルコン錠 またはダオニール錠(1.25mg)半錠あるいは
 アマリール錠(1mg)半錠 朝食前あるいは朝食後を追加し,血糖の推移を観察する

c.空腹時血糖値140‐220mg/dlかつインスリン分泌不全が存在する症例
 処方例 下記のいずれかを用いる
1)グリミクロン錠(40mg)半錠 分1 朝食前あるいは朝食後
2)オイグルコン錠(1.25mg)または
 ダオニール錠(1.25mg)半錠 分1 朝食前あるいは朝食後
 4‐8週後,効果が不十分であれば
3)グリミクロン錠(40mg)2錠 分2 朝夕食前あるいは食後まで増量
4)オイグルコン錠(2.5mg)2錠 分2 朝夕食前あるいは食後まで増量
5)ダオニール錠(2.5mg)2錠 分2 朝夕食前あるいは食後まで増量

5.経口血糖降下薬の併用療法 よりきめの細かい血糖コントロールのために,上記の薬剤の併用を試みる.特に単独投与で食後の高血糖が改善されないときはα‐グルコシダーゼの併用を試みる(保険では,SU薬,速効型インスリン分泌促進薬,ビグアナイド薬,インスリン製剤との併用が承認されている).インスリン分泌低下とインスリン抵抗性の両者の併在が考えられるときはSU薬とインスリン抵抗性を改善する薬との併用を試みる(保険承認).


D.インスリン療法の適応とインスリン製剤
 インスリン療法の絶対的適応は,インスリン依存状態(前記参照)に加えて,糖尿病昏睡,重症感染症の併発,中等度以上の外科手術,重篤な肝あるいは腎障害,糖尿病合併妊婦である.内因性インスリン分泌がある程度認められても,ケトーシス傾向がある場合や糖毒性の解除のために著明な高血糖を認める場合(随時350mg/dl以上)は相対的適応となる.

1.インスリン製剤の種類 現在のインスリン製剤は,@速効型(1‐3時間でピークに達し,作用持続は6‐8時間),A中間型(6‐12時間でピークに達し,20‐24時間持続),B持続型(8‐24時間でピークに達し,24‐28時間持続),C混合型(速効型と中間型を各種の割合で混ぜたもの)の4種類に分けられる.さらに,シリンジ用かペン型注入器用かによって2種に大別されている.

2.インスリン療法の基本方針 正常人のインスリン分泌は,持続的に一定量分泌されている基礎分泌と食事などの際に分泌される追加分泌よりなる.この正常人にみられる血中インスリン分泌パターンを各種のインスリン製剤を用いて作るのが基本方針である.インスリン依存状態(前記参照)のときは,基礎分泌も追加分泌も不十分と考えられ,基礎分泌を持続型あるいは中間型インスリンで補い,追加分泌を毎食時の速効型インスリンで補う.内因性インスリン分泌能がある程度認められ,基礎分泌は保たれていると判断される場合は追加分泌を毎食時の速効型インスリンで補う.ただし,簡便さの問題から混合型あるいは中間型インスリンを朝・晩2回注射することも多い.

3.インスリン療法の実際
a.インスリン依存状態 以下のインスリン頻回注射を行うインスリン治療の必要性を十分理解させ,低血糖に対して正しく対応できるように教育し,血糖自己測定ができるように指導する.また,食事を摂取できなくても基礎分泌に相当するインスリン⇒注射が必要なことを理解させる.
処方例
ペンフィルR注,またはヒューマカートR注
  毎食前 30分 4‐6単位 皮下注
ペンフィルN注,またはヒューマカートN注
  就寝前6単位 皮下注
 まず上記のインスリン頻回注射から始め,血糖値をみながら適宜増量する.インスリン必要量は0.6単位/kg/日程度を目安とする.基礎分泌を補う目的で1回/日注射するインスリン製剤は理論的には持続型(ノボリンU,ヒューマリンU)がよいと考えられるが,その吸収にバラツキがあったり,作用時間が中間型と大差なかったり,あるいはペン型が発売されていないなどの理由から中間型がしばしば代用される.
b.空腹時血糖値が220mg/dlあるいは随時血糖値が350mg/dl以上であり,尿中ケトン体が陽性 食事や生活態度の改善により血糖が良化する場合もあるが,インスリン療法によって糖毒性を解除してもよい.その間に,内因性インスリン分泌能を検討し,インスリン依存状態であればa.に記したインスリン頻回注射を行う.ある程度内因性インスリン分泌能があれば,下記のごとくインスリン⇒注射を行い,血糖の推移を観察する.
処方例
ペンフィル30R注,またはヒューマカート3/7注
  朝食前(30分)8単位 夕食前(30分)4単位 皮下注
 血糖値を急激に正常化することよりも,尿中ケトン体の陰性化を目標に,徐々に血糖値を低下させる.血糖値をみながら,2‐3日ごとに2‐4単位/日インスリンを徐々に増加する.1日のインスリン必要量が20単位未満であれば1回の注射でもよいが,20単位以上の場合は朝・夕2回にわけ,2:1程度の割合で注射するのが望ましい.食事療法や生活習慣の改善により,経口血糖降下剤への切り換えが可能であったり,薬物療法が不要となることもある.
c.経口血糖降下薬からインスリン療法への切り換え
 最大量の経口血糖降下薬を用いても「不可」の血糖コントロール状態が何か月も継続する場合には,治療法の変更を考えねばならない.この際,内因性インスリン分泌能を評価することが重要であり,インスリン依存状態であればa.の治療を行う.内因性インスリン分泌能がある程度あってもb.のような高血糖やケトーシス傾向があればb.の治療を行う.インスリン分泌能が正常にあれば,食事や運動などの生活習慣の悪化により血糖コントロールが「不可」となっているのであるから,徹底した食事療法と運動療法を行う.この場合,短期間でよいから入院して生活習慣を変えると血糖コントロールが良化することが多い.


糖尿病の食事療法‐栄養士に頼らず実施可能な方法論‐

A.動機づけの意義

 食事療法指導にあたっては開始時にも,また継続させていく過程でも動機づけがしっかりできるかどうかが成否の鍵を握る.したがって糖尿病の疾病概念,そして糖尿病治療における食事療法の位置づけと基本的な考え方について患者の年齢や社会生活的背景を十分考慮し,個別性のある表現方法で理解させることがまず求められる.
 この点に関しては,@糖尿病はインスリン作用の不足により高血糖がもたらされるが,食事療法を基本に適正な治療がなされることにより血糖が長期にわたってコントロールされれば合併症の予防も可能であり,健康人と同様の社会生活を送ることができること,A糖尿病の食事療法といっても決して治療食として特別なものがあるわけではなく,“何でも食べられる”が原則である.ただ“各個人の一日の活動量に見合ったエネルギーの枠内”という量的な制限はあるが,それは適正な体重維持といった意味からも健康のための食事といえること,などといった点がポイントになる.
 いずれにしても患者指導にあたっては教条的にならないよう注意し,主治医自らが自分の言葉で指導できるよう努めるべきである.


B.食事療法指導の実際
 食事療法指導開始にあたってまずすべきことは患者の食生活把握であり,そのためには数日間でも食生活の概要を記載させ,各食の献立の内容とその目安量(特に総エネルギーに影響の大きい主食についてはごはん,パン,麺類など,できるだけ量が分るように具体的に)を記載してもらう.その他,1日の活動量を推定しえるように日常的な生活スケジュール,食事時間,食事嗜好や間食・アルコール,外食習慣なども聞いておく.
 食事療法指導を進めていく際には,食事療法の原則にのっとり「糖尿病食事療法のための食品交換表(第5版)」,「食品交換表を用いる糖尿病食事療法指導のてびき」(いずれも日本糖尿病学会編,文光堂)を活用すると便利である.

1.食事療法の原則と指導のポイント
a.適正なエネルギー量の食事 1日の適正な摂取エネルギー量は標準体重を保って日常の生活ができる量であり,それは年齢,性,身長,体重,日々の活動量などに基づき個人別に決められる.標準体重の算出法については,標準体重(kg)=[身長−100(cm)×0.9],あるいは身長(m)2×22がよく用いられる.
 標準体重1kg当たりのエネルギー量としては一般的には軽労働で25‐30kcal,中労働で30‐35kcal,重労働では35kcal以上を目安にする.そしてこの標準体重にこのエネルギー量を掛け合わせると1日の必要エネルギー量が求められる.ただ,こうして求められた指示エネルギー量はあくまで机上の計算に基づくものであり,体重や血糖の推移をみながら若干の修正は必要となる.
b.栄養バランスのとれた食事 糖質は活動エネルギーの源であり,1日総エネルギー量の55‐60%が適正である.また蛋白質は標準体重1kg当たり1.0‐1.5g,1日摂取総エネルギー量の15‐20%が適正であり,一方脂質については同じく25%以内が適正とされ,コレステロールや飽和脂肪酸(動物性脂肪)の多い食品を控えめにする.
 三大栄養素の適正配分とともに重要なのがビタミンやミネラルであり,また食物繊維の不足が生じないように気をつける.この点については特に1日の摂取エネルギー量が少なくなるほど注意が必要であり,特に後述する食品交換表での表6の野菜や海草,きのこ,こんにゃく類を献立に積極的に取り入れるよう指導する.
c.規則的な食習慣 食後血糖値の変動をできるだけ少なくするために1日の指示エネルギー量は朝・昼・夕食の3回の食事に極端な偏りがないようにし,1日2食主義とか,朝・昼は軽くすませて夕食にまとめて食べるといったことを避けるよう指導する.また,特にインスリン治療下の患者をはじめ,薬物療法中の場合には低血糖防止のためにも規則正しい食事時間を指導すべきであり,運動量の多い場合にはなおさら注意しておく必要がある.
d.合併症対策としての食事指導 特に血管障害の発症・進展を予防する意味からも肥満の是正のみならず,動脈硬化性疾患のリスクファクターとしてのコレステロール,中性脂肪対策はもとより,高血圧・糖尿病性腎症対策としての食塩制限(5‐10g)も病状により具体的に指示する.

2.食品交換表とその活用 食品交換表では日常用いられている食品がおのおのに含まれる栄養素の組成により4群6表に分類されており,各表を通して80kcalが1単位と定められ,1単位に相当する各食品の重量(グラム数)や目安量が示されている.
 したがって,まず食べようとする食品がどの表に属するのか,またその食品1単位の量はどれだけかを理解することが大切であるが,同一表内での食品の交換は同じ単位なら自由に交換できる.1日の総エネルギー量(80で割ると総単位数)が決まれば,各表から何単位ずつ取ればよいかを指示すればよい.患者は指示された量でバランスがとれしかも食習慣,嗜好にあった食品を選択して献立を作ることが可能となる.
 なお,嗜好品や外食についても食品交換表による指導が可能であるが,アルコールについては許可する場合は2単位以内(ビールなら中ビン1本,日本酒なら1合弱)にとどめるべきである.


C.食事療法を継続させていくために
 食事療法指導は不適正な食習慣を修正することにもなるが,高齢者をはじめ患者は長年の食習慣を変更することに抵抗感の強い場合も少なくないだけに繰り返し根気よく軌道修正していく必要がある.そのためには日ごろからできるだけ主治医が患者の食事内容を把握しておくことが大切で,診察時には食事記入ノート(朝,昼,夕食,間食の摂取内容と食品表別の単位数などを記入)を持参させそれを点検する.記載内容から食事療法についての患者の理解度や実行度を評価することが可能となり,さらに血糖やHbA1cなどの検査結果と対比させるようにすれば食事療法継続のための動機づけの一助にもなる.なお,食事療法の実践には家族の協力が不可欠であり,実際に主として調理に携っている人に同席してもらう機会を増やす努力も要る.
 いずれにしても生涯にわたって食べる楽しみを持ちつつ継続させていくためにも“食品交換”の考え方と意義を理解させることへの努力が食事療法指導を実践していくうえで最も重要であると考えられる.