<十二指腸潰瘍>
Duodenal Ulcer



診断のポイント
【1】空腹時または夜間心窩部痛,背部痛
【2】消化性潰瘍の既往歴を有するもので,最近,心窩部痛を訴える.
【3】心窩部圧痛
【4】約1割は無症状(とくに老年者)


症候の診かた
 心窩部もしくは心窩部やや右側の痛み:空腹時に痛みが増強し,食餌摂取により軽減する.


検査とその所見の読みかた
【1】上部消化管X線検査:十二指腸潰瘍の95%以上は球部に発生し,しかも前壁に多い.潰瘍の診断は十二指腸壁の組織欠損部における造影剤(硫酸バリウム)のたまり(ニッシェ)を証明すること(直接所見)によりなされる.ニッシェを証明する最も有効な撮影方法は圧迫撮影である.急性活動期では,潰瘍周囲は浮腫による盛り上がりのため透亮像を呈する.球部は胃に比べて壁が薄く管腔が狭いため,胃潰瘍より変形を起こしやすい.初発の単純潰瘍では変形を生ずることはほとんどないが,再発を繰り返すと球部変形を生ずる.変形が高度なほど,ニッシェの描出率は低下する.
 潰瘍が治癒に向かうにつれてニッシェは縮小し,それに伴い粘膜集中がみられる.瘢痕期では圧迫像でニッシェは消失するか,ニッシェより薄い辺縁のはっきりしない像を呈する.

【2】上部消化管内視鏡検査:潰瘍の内視鏡分類(時相分類)を以下に示す.
@活動期
  A1:白苔は厚く,周囲粘膜が浮腫状に膨らみ,再生上皮がまったくみられない時期.
  A2:周辺粘膜の腫脹は軽減し,潰瘍縁の明瞭化する時期.潰瘍縁には再生上皮がわずかにみられるとともに皺襞集中が出現.
A治療過程期
  H1:辺縁粘膜の腫脹は消失し,白苔は薄くなり,再生上皮による紅暈が辺縁にみられる時期.
  H2:さらに再生が著明になり,白苔がわずかに残る時期.
B瘢痕期
  S1(赤色瘢痕):白苔は消失し,再生粘膜により潰瘍が修復され,発赤のみ認められる時期.
  S2(白色瘢痕):発赤は消失し,周辺粘膜と同色あるいは白色調を呈する時期.
  A1〜A2の活動期潰瘍から赤色瘢痕のS1までに要する時間はH2受容体拮抗薬を用いた場合で約6〜8週,プロトンポンプ阻害薬を用いた場合で約3〜6週である.
 上述の潰瘍の時相分類により,潰瘍の時期を判定する.潰瘍の直接所見は白苔の証明である.白苔は潰瘍底を覆う白色を基本色調とした苔である.急性期では出血のため,黒褐色を呈することがある.

【3】X線と内視鏡の比較:明らかな活動性潰瘍の診断には両者ともあまり差がないが,小さな潰瘍(5mm未満)や瘢痕の診断にはX線よりも内視鏡のほうが優れている.

【4】穿孔例では,消化管造影検査や内視鏡検査は禁忌である.


確定診断のポイント
【1】X線検査
【2】内視鏡検査


鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
 Zollinger-Ellison症候群:難治性潰瘍,高ガストリン血症,BAO/MAO≧0.6,セクレチン負荷テストによるガストリンの奇異性上昇にて診断.


予後判定の基準
 再発を繰り返し,高度狭窄をもたらしたものは待機的手術を行う.内視鏡的止血が成功しない高度出血例では血管造影下の止血や緊急手術を行う.穿孔例では緊急手術を行う.


合併症・続発症の診断
【1】出血
【2】狭窄
【3】穿孔:腹部所見で筋性防御(+),圧痛著明,検査所見で白血球増多,立位単純X線写真で横隔膜下に遊離ガス像,麻痺性イレウス像にて診断.


治療法ワンポイント・メモ
【1】活動期:H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬
【2】瘢痕期:再発防止のため,H2受容体拮抗薬の常用量の半量就寝前投与


さらに知っておくと役立つこと
 Helicobacter pyloriの除菌が潰瘍の再発を著明に抑制することがわかり,酸分泌抑制剤に加えて抗生剤(アモキシシリン,メトロニダゾール,クラリスロマイシンなど)による除菌治療が行われつつある.