<胃潰瘍>
Gastric Ulcer


診断のポイント
【1】心窩部痛:最も多くみられる症状である.その程度は病期や潰瘍の深さによる.しかし,特有の症状はない.
【2】X線・内視鏡検査にて胃壁の欠損像が認められる.欠損部に悪性所見が認められない.悪性所見とは潰瘍辺縁のはみ出し像,皺襞先端のやせ・中断などから成る.
【3】生検を行い悪性疾患を除外する.


症候の診かた
【1】上腹部痛:心窩部痛が多い.
【2】吐・下血:高齢者に多い.
【3】胸やけ,げっぷ,悪心・嘔吐:必発ではない.無症状のこともある.
【4】心窩部圧痛:急性期にみられることがある.


検査とその所見の読みかた
【1】X線検査:直接所見として,造影剤が胃壁の欠損像部に貯留したニッシェ(niche)とその部に向かう皺襞集中像(converging fold)が認められる.集中する皺襞先端部はなめらかに移行する.間接所見として小彎短縮・嚢状胃,砂時計胃,胃角の変形・開大など,潰瘍によって生じる二次的所見がみられる.

【2】内視鏡診断:白苔に覆われた粘膜欠損像として観察される.治療により,白苔の部分は縮小・消失し,再生上皮に覆われる.時相分類は崎田・三輪の分類が用いられる.活動期(active stage; A1,A2),治癒経過期(healing stage; H1,H2),瘢痕期(scaring stage; S1,2)の3期に分けられる.とくに,瘢痕期のS1期は赤色瘢痕期,S2期は白色瘢痕期とされ,S2期になるまで治療を継続すべきとされている.

【3】生検診断:良・悪性を鑑別する.経過中に必ず一度は生検を実施する.活動期には浮腫を伴うために,それ以降の時期に行うことが望ましい.

【4】超音波内視鏡診断:潰瘍はその欠損像とその周囲および底部に広がる低エコー領域として観察される.また活動期には欠損像の底部に1層の高エコー部がみられることがある.治療とともに1層の高エコー部は消失し,欠損像は浅くなり,低エコー領域も縮小する.低エコー部は瘢痕期にも残存することがあるが,最後に消失する.潰瘍の深さを判定することができる.


確定診断のポイント
【1】X線検査にて直接所見または間接所見をとらえ,内視鏡検査を行う.最近では,内視鏡検査を直接行うことも多い.内視鏡検査にて白苔に覆われた粘膜欠損像をとらえる.
【2】さらに,潰瘍辺縁から生検を行い,悪性像が認められないことを確認する.


鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
【1】O‐V型胃癌
@活動期の潰瘍と鑑別が必要である.
A潰瘍辺縁にはみだし所見が認められる.
B内視鏡所見だけでは鑑別が困難なことが多く,生検にて良・悪性の鑑別がされることが多い.

【2】O‐V+Uc,Uc+V型胃癌
@治癒経過期の潰瘍と鑑別が必要である.
A潰瘍周辺のUc部分を診断する.
B潰瘍辺縁にはみ出し所見や皺襞先端に蚕食像が認められる.

【2】2型・3型胃癌
@陥凹部は不整形を呈し,底は凹凸不整,きたない.
A陥凹部の辺縁は不規則に高まる.


予後判定の基準
【1】多くは治療開始8週間以内に治癒する.
【2】治癒しにくい潰瘍(酸分泌抑制薬により12週間以内に治癒しない潰瘍)は胃角部の潰瘍,深く・大きな潰瘍,活動期にすでに強い襞皺集中が認められる潰瘍,線状傾向のある潰瘍に多い.超音波内視鏡検査によると,UI‐Wの潰瘍で,厚い線維組織と粘膜筋板と固有筋層の筋層融合を表す所見がみられる.


合併症・続発症の診断
【1】出血:吐・下血を認める.緊急内視鏡検査を行い,胃内に血液の残留,潰瘍底に血液の付着および露出血管を認める.
【2】穿孔:潰瘍の既往がある.突然,腹部の激痛を認める.腹壁は板状硬,腹部単純X線写真にて遊離ガスを認める.
【3】穿通:背部への放散痛を認める.膵臓への穿通が多い.後壁潰瘍に多くみられる.
【4】狭窄・通過障害:腹部膨満感,嘔吐がみられる.X線・内視鏡検査にて狭窄を認める.


治療法ワンポイント・メモ
【1】酸分泌抑制薬(ヒスタミンH2受容体拮抗薬あるいはプロトンポンプ阻害薬)を用いる.粘膜防御因子増強薬を1〜2剤併用する.
【2】出血性潰瘍に対しては,内視鏡的止血術(高張Naエピネフリン液・エタノール液の局注療法,クリップ装着など)を行う.
【3】なかなか治癒しない潰瘍や再発予防のためにはHelicobacter pyloriの除菌を行うとよいとの報告がある.


手術適応のポイント
【1】内視鏡的止血術により止血できない潰瘍や穿孔潰瘍が絶対的適用である.
【2】狭窄所見がみられる潰瘍,再発・再燃を繰り返す潰瘍,なかなか治癒しない潰瘍が相対的適応となる.しかし,これらの例は最近少なくなっている.


さらに知っておくと役立つこと
 Helicobacter pyloriの胃潰瘍へのかかわりが話題である.1994年に米国NIHは本菌が存在する潰瘍は除菌療法が必要であると勧告している.