<胃癌>
Gastric Cancer


診断のポイント
 癌による死亡数は増加しているが,逆に胃癌死亡数は近年減少してきている.この主な要因は医療技術の進歩と検診の決定により,完全治癒可能な早期胃癌の発見数の増加に伴う治癒率の向上である.早期発見の必要性を再認識せねばならない.
【1】胃癌に特有な症状はなく,ことに早期の癌ではまったく無症状である.癌が進行すると上腹部のもたれ感,食欲減退などの症状が出現する.
【2】しかし,胃癌の完全治癒を目指すには無症状期に発見し,内視鏡的ないし外科的治療が必要である.
【3】そのためには40歳以上のhigh risk者には上腹部の愁訴の有無に関係なく毎年1回,若年者でも上腹部の愁訴があれば必ずX線ないし内視鏡検査をする.被検者1人1人に胃癌が存在しないかの気持ちで検査をする.


症候の診かた
【1】胃癌に特徴的な症状はなく,症状から診断することは不可能である.

【2】早期癌では無症状のことが多く,病変内に潰瘍を形成すると潰瘍症状である心窩部痛,不快感,悪心,嘔吐,吐・下血などが出現する.

【3】進行胃癌では心窩部不快感,膨満感,食欲不振,悪心,嘔吐などを認め,噴門部癌で噴門狭窄を生ずると嚥下障害,幽門部癌で幽門狭窄を生ずると強い腹部膨満感,悪心,嘔吐をみる.

【4】癌腫が大きくなると上腹部に腫瘤を触知したり,肝臓転移を生ずると肝腫大,黄疸が現れる.腹膜に播種すると癌性腹膜炎による腹水,後腹膜や後腹膜リンパ節へ転移・浸潤すると強い背部痛をみる.左鎖骨上窩リンパ節に遠隔転移するとかたいリンパ節を触れる(Virchow転移).腹膜播種でDouglas窩に転移すると直腸指診で直腸前方に腫瘤を触知する(Schnitzler転移).卵巣に転移すると卵巣腫大として画像診断で発見される(Krukenberg腫瘍).これらはすべて末期の状態であり,全身衰弱の悪液質症状を現すようになる.


検査とその所見の読みかた
 胃癌の診断はX線または内視鏡検査,生検診断が基本検査である.
 胃癌診断は癌深達度からみた胃癌肉眼所見の把握の上に立ったX線ないし内視鏡診断が不可欠であり,そのためには胃癌肉眼分類からみた肉眼所見を十分に理解しておかねばならない.

【1】胃癌の深達度分類
 癌浸潤先進部の胃壁内の深さの程度,すなわち深達度を粘膜内m,粘膜下層までsm,固有筋層mp,漿膜下層ss,漿膜sとし,sを癌が漿膜に接するか,これを破って腹腔に露出しているse,直接他臓器に浸潤するsiとに分けている.粘膜下層までの癌を早期胃癌とし,mp以深の癌を進行癌と定義している.さらに,sm癌はsm層を3等分しsm1,sm2,sm3とに分けられている.

【2】早期胃癌の肉眼分類と所見

 1962年に日本で定められた分類であり,世界的に普及している(図1).

【3】進行胃癌の肉眼分類(Borrmann分類)と所見(図2)

【4】X線診断,内視鏡診断

@X線検査:胃癌のX線所見は癌浸潤や結合織増生に基づく壁硬化,伸展性不良,変形,粘膜ひだの走行異常と粘膜の凹凸変化である.陥凹は不整な陰影斑,その深さの程度は陰影斑の濃淡の程度の差として,隆起や顆粒は透亮像として描出される.スクリーニング検査では各種撮影法を組み合わせて胃全体を描出し,微細所見をも過剰にすぎるほど注意深くチェックすることが早期胃癌発見の道である.

A内視鏡検査:現在では,食道から胃・十二指腸の上部消化管を一気に診断するパンエンドスコピーが最初からルーチン検査として行われることが多くなっている.現在繁用されているビデオスコープは多人数がモニター画面で良好な画質の動画を観察することが可能で,微細所見のチェックも容易となった.胃癌の内視鏡基本所見は凹凸の変化と色調変化(発赤,褪色)や出血などである.陥凹は白苔の付着として,その深さの程度は白苔の濃淡の差としてとらえられる.インジゴカルミン色素散布は粘膜面の微細な凹凸・色調変化をも明瞭に描出し,病変の正確な把握ができる.さらに観察時に異常所見を示す部位より小組織を採取し,病理組織学的に確定診断(生検診断)する.直視鏡では側視鏡と異なり視野角が狭く,体部後壁や角うらの部位は観察されにくかったり,撮影部位の同定が難しいことがある.粘液で病変が隠されないよう粘液溶解酵素(プロナーゼMS)を用いた前処置が必要であり,また送気量が少なく,胃壁の伸展が不良で体部大彎のUcを見逃す危険性のあることなどを十分に留意すべきである.

B浸潤範囲診断:外科あるいは内視鏡的切除(EMR)での切除線決定に重要.X線では胃小区模様や造影剤の壁付着性の変化,内視鏡では色調変化(分化型では発赤,未分化型では褪色)や血管透見像の消失を手がかりに胃生検を併用し,癌巣境界健常粘膜にマーキングし,その部が癌陰性であることを明確にする.

C深達度診断:治療法の選択に不可欠である.内視鏡的治療か外科治療かなどの決定に重要であり,確実な診断が要求される.隆起型では有茎性か広基性か,有茎性はmであり,広基性で表面に陥凹を伴っていればsmであり,ひだ集中や粘膜下腫瘍様形態を示す病変はmp以深である.陥凹型でのsm以深の指標は変形の強さ・伸展性の障害,集中ひだの先太り(肥大),断裂や融合,陥凹面の平低化や硬化であり,さらに陥凹周辺の著明な隆起あるいは病変部の台状の盛り上がりを示す場合はmp以深である.また深達度診断には超音波内視鏡(EUS)が有用である.内視鏡的治療に先立ってのEUSは不可欠である.しかし,潰瘍病変を伴っている症例では癌浸潤と線維化との鑑別が難しく,ul(−)の病変ほど成績は良好でなく,EUSにも限界のあることを注意する.

D進行度診断:漿膜外浸潤や転移などの診断にはEUS,CT,MRI,体外超音波検査を駆使する.





確定診断のポイント
 確定診断は生検標本の病理組織学的検索(胃生検診断)によりなされる.進行癌や陥凹性早期胃癌ではその形態から診断は容易である.早期胃癌のうちUb,VはX線,内視鏡検査のみでは困難であり,生検によらねばならない.V型は短期の経過観察でVの辺縁にUc(V+Uc)が出現(悪性サイクル)し,診断は容易となる.T型(polypcancer)あるいは一部のUaは生検でも確診できず,EMRではじめて確診されることがある.陥凹性病変では陥凹底には癌陰性の場合が多く,生検は陥凹辺縁を狙撃部位とし,微小病変では確実な狙撃で生検は1〜2個に止める.微小癌は生検で癌消失する場合もあり,生検時には病変近傍にマーキングを行い,後の検査,治療に役立たせる.Uaことに腺腫内癌ではgroupVと診断されることがしばしばある.また陥凹性病変でgroupVは癌のことが多く早期再生検が必要である.


見逃されやすい胃癌
 微小胃癌,Ub型早期胃癌,早期のスキルス型(linitis plastica型)胃癌などがある.微小胃癌の分化型癌では顆粒状の隆起を伴う不整形,星芒状の陥凹,未分化型では不整形,辺縁鋭な陥凹あるいは線状陥凹あるいは褪色斑,色素散布内視鏡検査で前者はくすんだ発赤斑ないし陥凹,後者では不整形褪色斑ないし陥凹に注意する.また早期のスキルス型胃癌の発見には胃底腺領域である胃体部大彎の粘膜ひだを造影剤や送気で十分に伸展させ,伸展時の粘膜ひだの走行不整ないし歪みや粘膜ひだ間の小陥凹や褪色斑,さらには胃壁の不整や硬化に注意する.


鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
【1】悪性リンパ腫
@多発の潰瘍やびらんを伴い,粘膜下腫瘍様の要素もあり多彩な所見を呈するが,胃壁の伸展性はよい.
Aびまん性にひだの太まりを示す場合はスキルス型胃癌との鑑別が必要.
B生検で鑑別が可能であるが,悪性リンパ腫を疑っても生検で悪性リンパ腫の所見を得られないこともあり,繰り返しての生検が必要.

【2】RLH(reactive lymphoid hyperplasia)
@悪性リンパ腫と同様であり,多彩性を示すが粘膜下腫瘍様の要素は認めないのが特徴である.
A生検が不可欠.
Bしかし,RLHとしての所見が得られないこともあり,massbiopsyとしての診断的EMRが必要なこともある.

【3】平滑筋腫,平滑筋肉腫
@表面平滑で立ち上がりのなだらかな粘膜下腫瘍,中心にDelleを伴うこともある.
A癌との鑑別は容易.
B3cm以上になると平滑筋腫より平滑筋肉腫を考えること.
CEUSでは腫瘤は第4層に連続し,筋原性腫瘍の診断は容易.
D生検では確診は得られない.

【4】良性潰瘍
@潰瘍縁は滑らかで,集中粘膜ひだは潰瘍辺縁まで滑らかに達し,活動期には潰瘍縁が浮腫のため腫脹し,周堤様にみえる.胃癌と鑑別の難しいのはV型早期胃癌である.
A胃癌ことに早期胃癌の表面は潰瘍を生じやすく,Uc型では潰瘍をつくりUc+VあるいはV+Ucさらに潰瘍が大きくなるとV型にみえたりする.しかし,短期間(2〜3週)の経過観察で潰瘍は縮小ないし瘢痕化する.さらに潰瘍は再発もする(悪性サイクル).
B潰瘍瘢痕とUcの鑑別が難しい場合もある.不整びらんや集中粘膜ひだの性状から鑑別可能.生検で確診可能,しかし,まれに再生異形上皮をgroupVと診断されることもある.

【5】過形成性ポリープ
@直径2cm以下のものが多い.
Acancer in hyperplastic polyp(polyp cancer)以外は生検で鑑別可能.
B2cm以上の病変はpolypectomyで診断する.

【6】異形上皮(腺腫)
@表面は均一な顆粒からなる平盤状隆起,多くは褪色調を呈する.
A小さな病変でも癌組織が併存することもあり,また生検診断でも組織異形度の診断が難しい場合もあり,病変の大小にかかわらず可及的にEMRが必要.


なかなか診断のつかないとき試みること
 形態的に癌を疑っても生検診断癌陰性の場合は再生検を行う.胃生検組織の小さな組織片からは病理組織学的に診断が困難な症例ではmassbiopsyとし,また内視鏡的治療に先立って深達度診断を確実にするために,診断的EMRも必要である.


予後判定の基準
 予後は癌の深達度,リンパ節転移,肝臓転移,腹膜播種の有無と程度に左右される.癌深達度より予後をみると,癌研病院外科での1970〜1989年までの術後5年生存率はm癌94.5%,sm癌93.2%,mp癌84.3%,ss癌65.7%,se癌28.8%,si癌4.8%とm,smの早期胃癌では予後は著しく良好である.早期発見・早期治療が要求される.


合併症・続発症の診断
【1】胃穿孔:突然の激しい腹痛を訴え,立位腹部X線写真でfree airを確認する.胃潰瘍と異なり,頻度は著しく少ない.
【2】吐・下血:緊急内視鏡検査で出血源を確認する.
【3】噴門狭窄:嚥下障害と頻回の嘔吐,X線,内視鏡検査で食物の残存と食道末端部の狭窄を確認する.
【4】幽門狭窄:頻回の嘔吐,異臭を伴うゲップ,上腹部に胃拡張による膨隆を触れ,X線あるいは内視鏡検査で胃の拡張と多量の食物残渣と偽幽門形成を認める.
 胃癌の早期発見が可能となった現在では,吐血,下血を除く合併症は少なくなっている.


治療法ワンポイント・メモ
 根治的な手術ないし内視鏡的切除が最良の方法である.しかし,手術の適応がない場合やどうしても本人家族の了解の得られない場合には,化学療法や免疫療法が行われる.胃癌化学療法で奏効率のよい多剤併用療法としては,FAMTX(5‐FU,アドリアマイシン,メトトレキサート),FAP(5‐FU,アドリアマイシン,シスプラチン),FP(5‐FU,CDDP),FLEP(5‐FU,ロイコボリン,エトポシド,CDDP)などが報告されている.しかし,多剤併用療法による明らかな生存期間の延長を認めることは少ない.したがって,化学療法を行う場合は適応を慎重にすべきであり,専門医に委ねることが必要である.腹膜転移には化学療法剤(CDDP,OK‐432,MMCなど)の腹腔内投与などが行われる.肝転移に対しては肝動脈への超選択的投与や長期頻回投与のためリザーバーを設置する.


内視鏡的粘膜切除(EMR)のポイント
 小さな粘膜内癌はリンパ節転移がなく,手術適応例でも積極的にEMRが行われている.根治を目的とした内視鏡的切除の適応は2cm以下分化型Ua,1cm以下ul(−)分化型Ucおよび未分化型癌では胃底腺領域以外の5mm以下ul(−)Ucである.しかし,微小未分化型癌の大きさの計測は肉眼的にははなはだ難しく,未分化型の適応については慎重でなければならずコンセンサスは得られていない.分化型ul(−)のm癌であればリンパ節転移の危険性は少なく,上記適応の拡大意見があるが,EUSでも,sm2,sm3をMと診断する危険性があり,EUS診断Mでも上記適応より大きな病変では診断的EMRで深達度を明確にした上で治療方針を決定する.


手術適応のポイント
 遠隔リンパ節転移,腹膜播種や肝臓転移などがあれば手術の適応はない.
 しかし,リンパ節転移や肝臓転移に対しては術前化学療法を行い,down stagingの後手術する場合もあり,またできるだけ手術により癌腫を切除し,その後に化学療法を行う方法もある.早期胃癌では機能温存あるいは患者へのより侵襲の少ない治療法が用いられ,標準手術(D1〜D2を伴う胃切除術),縮小手術(D1+切除範囲の縮小)が施行される.進行胃癌では進行度と占居部位から治療法が選択され,D2〜D3を伴う幽門側切除ないし噴門側切除を行う.これら部分切除では切除断端癌陽性による残胃再発の防止のため,術前の確実な癌巣範囲診断が不可欠である.胃上部進行癌では,胃全摘と膵尾側切除・脾摘出の合併切除,Borrmann4型胃癌は膵,脾,肝,横行結腸の周囲臓器とともに胃全摘する左上腹部内臓全摘術,3cm以上の食道浸潤を伴う上部胃癌では開胸開腹術,膵頭部に浸潤癒着する癌では膵頭十二指腸切除が施行される.