<各種ショックの特徴>


 ショックとは,なんらかの原因により血管床とそこを流れる循環血液量とのバランスがくずれた状態で,全身組織に酸素や栄養素が行き渡らず,放置すれば死に至らしめる症候群と定義される.
 臨床的には収縮期血圧≦80‐90mmHgにより診断されることが多い(平時の収縮期血圧が150mmHg以上の場合には平時に比し60mmHg以上の低下,平時の収縮期血圧が110mmHg以下の場合には平時に比し20mmHg以上の低下).血圧は「血圧=心拍出量×末梢血管抵抗」の等式で示され,心拍出量減少(循環血液量減少,心機能低下)か,末梢血管抵抗低下(血管床増加)のいずれかにより低下する.前者によるショックでは血圧を維持すべく末梢血管抵抗は上昇して交感神経優位となるため,顔面蒼白,皮膚冷感・湿潤等の所見を呈する.後者によるショック,特に初期の細菌性ショックでは,末梢血管拡張のため末梢は温かく,warm shockともいわれる.また,末梢血管抵抗の低下を代償すべく心拍出量は増加するためhyperdynamic shockともいわれる


A.血液量減少性ショック
 絶対血液量が減少する出血性ショック,外傷性ショック,血漿成分のみが減少する熱傷ショックなどがある.外傷性ショックは受傷時精神性ショック(血管拡張性ショック)のこともあるが出血性ショックが主体であり外出血,体腔内出血のほか,軟部組織内への出血,体液移行も関与する.また,緊張性気胸では心原性ショックとなる.熱傷ショックでは血漿の喪失により血液は濃縮,ヘモグロビン値,ヘマトクリット値は上昇するが蛋白濃度は低下する.極度の嘔吐,下痢,腸閉塞,腹膜炎,重症膵炎なども血漿成分減少性ショックをきたす.


B.心原性ショック
 絶対血液量は保たれているが心機能低下により循環に関与する血液量が低下する.発症原因別に冠動脈型(心筋梗塞),非冠動脈型,また血行動態の変化により左心室駆出不全型(狭義の心原性ショック,徐脈,心ブロック,心室細動),左心室充実不全型(心タンポナーデ,過度の頻脈),機械的閉塞型(肺動脈血栓,塞栓)に分類される.


C.血管拡張性ショック
 小動脈の抵抗低下,動静脈シャント,静脈の緊張低下などに起因し,早期の細菌性ショック,アナフィラキシーショック,神経原性ショック(脊髄損傷,脊椎麻酔,副腎髄質不全,交感神経遮断,起立性低血圧,vaso‐vagal reflex)などが含まれる.細菌性ショックは早期では血管拡張に起因するが,血管拡張に伴う相対的循環血液量減少,心機能抑制因子などによりそれぞれ血液量減少性ショック,心原性ショックの病態も合わせもつともいえる.特に末期においては心原性ショックが主体となる.アナフィラキシーショックではIgEと抗原との反応により血管作動性物質が大量に放出され血管拡張と透過性亢進とが起こる.IgEの関与しないアナフィラキシー様反応でもショックとなることがある.薬物性ショックは薬物の中毒による場合と,薬物に対するアナフィラキシーによる場合とがある.起因薬物では麻酔薬が最も多く,ほかに抗生物質,鎮痛解熱薬,造影剤,ホルモン剤,ワクチン,輸血などがある.神経原性ショックは末梢血管拡張による相対的循環血液量減少,心臓への交感神経遮断などが主体である.
 産科ショックは産科的疾病に関連したショックで,仰臥位低血圧症候群,腰椎麻酔,羊水血栓,胎盤早期剥離,子宮外妊娠,前置胎盤,子宮破裂などが含まれ,病態としては血液量減少性ショック,心原性ショック,血管拡張性ショックのいずれもとりうる.妊娠末期では血液凝固能の亢進がありDICを起こしやすく,また感染の機会も多く細菌性ショックになりやすい.


緊急処置
 臨床の現場で遭遇するショックの第1番目の症状は,全身的な循環不全であり,循環不全が重症ならば心停止,呼吸停止にまで至り,一般的な救急蘇生法,すなわち気道確保(Airway),人工呼吸(Breathing),胸骨圧迫心マッサージ(Circulation)が必要となる.気道確保,人工呼吸に関しては,最近は救助する側の患者からの感染予防の観点より,口対口の人工呼吸は避けるべきであるとの意見があり,ポケットマスクを用いた口対マスクでの人工呼吸が推奨されている.また心マッサージに関しては救助者の両手を直接胸骨に当てマッサージをするのではなく,Active Compression Decompression Cardiopulmonary Resuscitation(ACDCPR)という,簡単な器具を用いて能動的な加圧のみならず能動的な減圧も行う心マッサージの方法が導入され,効果をあげている.このACDCPRを行うと,気道さえ確保されていれば,心マッサージを行うことである程度の人工呼吸も期待でき,救助者が1人しかいない場合など有用である.
 心停止,呼吸停止にまでは至っていないショック患者においては,静脈路を確保し,酸素を投与しながら血圧測定,心電図のモニタリング,尿道カテーテルの留置による尿量測定などを行いつつ,ショックの原因の検索など治療を開始すべきである.



ショック患者のモニター
ショックの臨床症状としては以前よりショックの5徴(5P's)とよばれているものがある.すなわち,顔面蒼白(pallor),虚脱(prostoration),冷汗(perspiration),脈拍触知不能(pulslessness),呼吸不全(pulmonary deficiency)である.これらの症状を呈する患者がいたらショックが発症していることをまず疑診すべきである.

A.意識レベル
 意識レベルはショックの進行で傾眠,昏睡となり,組織の潅流不全を示す1つのモニターであり,患者から目を離さず顔貌などの症状とともに注意深い観察が必要である.ただし,敗血症性ショックでは,高熱,顔面の紅潮,皮膚乾燥などと,他のショックと異なることに注意のこと.

B.血圧
 ショックの治療目標値としては血圧>100mmHg,脈圧>30mmHgで,15分ごとに血圧・脈拍を測定する.血圧の低い時には触診法で血圧を測定したり,橈骨動脈の触知だけで80mmHg以上,上腕動脈で60mmHg以下,大腿動脈で50mmHg以上,頚動脈で40mmHg以上の血圧が判断できる.また,出血量が15‐30%以下では,代償性の頻脈,尿量の減少,血管抵抗の増加などより血圧は低下しにくい.頻回測定では,自動持続血圧計や観血的血圧測定装置が有用である.

C.心電図
 四肢誘導UまたはQRSの大きい誘導でモニターし,患者の急変をいち早く知りえるよいモニターである.頻脈の程度は強いほど重症であるが,心原性ショックやβ遮断薬を投与中の患者ではみられない.一方,極端な頻脈では脈が触れにくく,不整脈の判断が難しいので,心電図モニターの活用が望ましい.

D.尿量
 ショック進行とともに尿は濃縮し,減少から無尿となるので,30分ごとに尿量を測る.成人で尿量<0.5ml/kg/時となると重症化への進行を示す.

E.体温
 低温への曝露は患者への侵襲となり,37 ℃以上の発熱で1度につき酸素需要が10%増加するので,体温モニターによる調節は大切である.

F.中心静脈圧(CVP)
 CVP値が5cmH2O以下なら循環血液量減少,末梢血管抵抗減少を,15cmH2O以上では心臓ポンプ機能の低下を,20cmH2Oで心不全を意味する.CVP値が5‐15cmH2Oでは,その変動から輸液の過不足などを判定する.CVPは循環血液量と右心機能を示すというが,容量血管の緊張性,胸腔内圧,体位などにも影響され,その画一的解釈は難しい.

G.呼吸,血液ガス,パルスオキシメータ
 ショック初期には多呼吸で浅迫,意識障害が進行すると呼吸運動は弱くなり,末期では下顎呼吸から無呼吸に移行する.そこで,酸素化と換気のモニターとして,呼吸数を30分ごとに測定し,呼吸が不安定なら連続的に,気管内挿管があれば換気量や気道内圧をもモニターする.また,血液ガスでのモニタリングは,酸素濃度,機械呼吸の条件変更後や,アルカリ化薬投与後に必要である.血液ガスに代わる呼吸の連続モニターとして,パルスオキシメーターは非常に有用である.

H.Swan‐Ganzカテーテル
 中心静脈圧,肺動脈楔入圧,心拍出量,肺動脈圧,混合静脈・動脈血の血液ガスを測定して,@前負荷,A後負荷,B心拍数,C心収縮力,から循環動態を正確に把握できる最も鋭敏な循環動態モニターで,輸液,血管作動薬などの治療指針となる.循環血液量減少性ショックではすべての測定値が低下し,心原性ショックでは心拍出量が低下し,中心静脈圧と肺動脈楔入圧が上昇する.また,フォレスター分類を用いて,V群では心拍出量が低くても,輸液によって前負荷を増加させ,W群では,輸液を制限して利尿をはかり,血管拡張薬を投与する判断を行う.

I.特殊検査
 右心系圧負荷のモニターに,頚静脈圧の上昇,末梢浮腫の観察とともに,胸部X線・超音波検査で心陰影拡大や肺浮腫像が観察され,心タンポナーデにも有用である.他に,継続的な必須検査項目とともに,エンドトキシンの測定は血液浄化療法などの治療方針を決めるよいモニターとなる.



ショックの重症度と合併症

A.重症度

 ショックの基本病態は,急性の全身性の末梢循環不全である.その重症度評価は,種々の生理学的指標を組み合わせて行うのが一般的である.ここでは小川のショックスコア(表)を参考に解説する.


1.血圧 末梢組織の潅流圧を反映するのは,平均血圧である.収縮期血圧は1回拍出量の,拡張期血圧は末梢血管抵抗のおおよその指標となる.臨床の現場では,測定の簡便さから末梢組織の潅流圧の指標として収縮期血圧が選ばれる.出血では循環血液量の減少に伴い,1回拍出量が低下し収縮期血圧は低下する.しかし,同時に交感神経系の緊張で末梢血管が収縮し拡張期血圧は維持される.したがって,脈圧(収縮期‐拡張期血圧)は小さくなるが,平均血圧,すなわち組織潅流圧はしばらく維持されることになる.さらに,出血が持続すれば,この防御機構でも対応できず低血圧となり典型的なショック状態となる.

2.脈拍 生体の防御反応としての交感神経の緊張に伴い,脈拍数が増加する.しかし重症化すれば徐脈となることもあり,注意が必要である.

3.base excess(BE) 末梢循環不全により酸素供給が低下し,嫌気性代謝からアシドーシスとなる.BEの低値は,この代謝変動を反映するものである.

4.尿量(UV) 時間尿量が維持されていれば,腎臓で尿を産生するのに必要な血流と血圧が維持されていることを意味する.利尿薬を使用していなければ,時間尿量は腎臓という末梢組織の循環の指標となる.

5.意識状態 意識は脳機能の大まかな評価基準として用いることができる.頭部外傷や薬物の影響がないという条件下で,脳という末梢組織への血流低下を反映するものである.小川のショックスコアは,これら5項目のスコアを合計し,重症度を評価するものである.すなわち0‐4点を非ショック,5‐10点を中等症ショック,11‐15点を重症ショックとしている


B.合併症
 ショックでは,酸素消費量に比べ供給量の低下が著しい.末梢組織は虚血状態となり,直接障害を受ける.また,各種ケミカルメディエーターや,ショック離脱後の再還流に伴い大量に産生されるフリーラジカルなどの攻撃により臓器・組織・細胞は大きなダメージを受ける.その障害は,血圧が維持されショックから離脱した後に顕著に現れ,ショックの合併症として理解されることになる.一般にショックの合併症は,血圧の低下程度より,低血圧の持続時間に関係するとされる.

1.呼吸障害 ARDSといわれる状態であり,その基本病態は肺の間質性浮腫である.肺での酸素化能(PaO2)の低下が主体で,最終的には換気不全(PaCO2の上昇)も伴う.間質性浮腫は毛細血管の透過性亢進に起因し,利尿薬の投与は無効である.呼吸管理が必要となるが,この際換気量を維持すれば気道内圧は高値となり,肺胞を障害しventilator induced lung injuryを引き起こす.最近は,pressure support ventilation(PSV)の普及に伴い,気道内圧の上昇をさけ高炭酸ガス血症を容認する呼吸管理法が選択されることがある.

2.腎障害 腎血流の低下と血管収縮が影響しあって,尿細管基底膜の変性を伴う急性尿細管壊死が原因である.乏尿を伴う場合,尿中Na排泄率 [FENa:(尿中Na濃度/血清Na濃度)×100/(尿中クレアチニン濃度/血清クレアチニン濃度)] が腎前性(脱水:FENa低値)と腎性(FENa高値)の区別に有用である.

3.肝障害 低酸素,肝血流低下,うっ血,敗血症などが原因で肝機能障害をきたす.GOTやGPTが上昇することもあるが,主体は黄疸である.肝ミトコンドリア障害が原因であり,この程度は動脈血ケトン体比(AKBR)によって知ることができる.

4.多臓器不全 ショックの後に複数臓器がほぼ同時に障害された状態である.ショックに伴う組織虚血,また,特に敗血症性ショックではサイトカインを中心としたケミカルメディエーターの過剰な産生が原因と考えられている.しかし特定のケミカルメディエーターを減じることにより,多臓器不全を予防ないし治療する方法はいまだ開発されていない.