<潰瘍性大腸炎>
Ulcerative Colitis


診断のポイント
 潰瘍性大腸炎は主に大腸粘膜にびまん性にびらんや潰瘍を形成する炎症性病変であるが,その原因は不明であり,非特異性炎症として取り扱われる.通常は直腸から連続的,びまん性に口側へ向かって炎症が波及するが,まれにはCrohn病や腸結核と同様に,非連続性に炎症が拡がる(skip lesion)こともある.若年者に好発するが,幼児や高齢者に初発することもある.しばしば保存的治療に抵抗して難治性であることがあり,しかも再燃や再発を繰り返す.全身的にさまざまな合併症をきたすことが多いが,なかでも大腸癌合併は重要である.本症の原因として免疫異常が関与しているとされており,今日では自己免疫疾患としての位置づけがされている.

【1】症状として下痢,血便,粘血便などの便通異常,腹痛,蠕動不穏などの腹部症状が主であるが,病変範囲や炎症の程度によって症状はさまざまである.重症例では発熱,頻脈などの全身症状を併発する.
【2】便細菌検査によって感染性腸炎(腸結核,アメーバ赤痢,細菌性赤痢,カンピロバクター腸炎など)を除外することが本症の確定診断に不可欠である.
【3】血液,生化学検査などは重症度を把握するうえで必要である.
【4】確定診断や病変範囲の診断,炎症の程度の診断には注腸X線検査,内視鏡検査が重要である.直腸から連続性に上向するびまん性炎症を診断することがポイントである.


症候の診かた
【1】下痢と血便:多くは1日数回〜10数回の粘液の混じった血便(粘血便)がみられ,イチゴゼリー状,トマトケチャップ状などと表現される.軽症例では血液はみられず,粘液のみが排泄されることもある.また直腸炎型では排便の前後に新鮮血が排泄されることもあり,痔瘻をはじめとする肛門疾患との鑑別が必要である.本症と類似した血便をきたす疾患は少なくないため,血便の状況を患者の訴えのみから把握するのではなく,医師自らが観察することが望ましい.
【2】腹痛:下腹部を中心に,便意を伴う腹痛がみられるが,その程度はさまざまであるし,本症に特異的ではない.
【3】発熱:中等症例や重症例では37〜38 ℃の発熱を伴う.
【4】頻脈:重症例で貧血が進行すると頻脈がみられる.


検査とその所見の読みかた
【1】血液,生化学的検査:重症度を知り,炎症の程度を客観的に評価するための炎症マーカーとして,白血球,赤沈,CRP,α2グロブリンなどが検査される.また全身状態,栄養状態の把握のためには総蛋白量,トランスフェリン,ヘモグロビンやヘマトクリット値,コレステロールなどを参考にする.また凝固能の亢進を知るためには血小板,血漿フィブリノーゲン量などを参考にする.

【2】注腸X線検査:活動期と寛解期で所見は異なる.活動期には腸管が短縮し,径も細くなり,ハウストラが消失して,いわゆる鉛管状になる.network patternは失われ,潰瘍やびらんが多発する.潰瘍はカラーボタン状,不整形などさまざまであるが,腸管辺縁像としてはprofile nicheとして読影できる.重症例では炎症性ポリープを形成するが,活動期にはその形態は不明瞭であることが多い.
 寛解期には活動期にみられた炎症所見は軽減し,腸管の伸展性も多少とも回復する.潰瘍は消失し,network patternも回復する.炎症性ポリープの形は明瞭になり,無茎性から有茎性,mucosal tag(粘膜橋)に至るまでさまざまな形態を呈する.

【3】内視鏡検査:内視鏡検査は前処置を行わずに施行でき,重症例に対する検査として便利である.しかし腸管穿孔や出血を増悪させないように,注意深い操作が要求される.軽症例ではX線で病変を描出することが困難なこともあるが,内視鏡ではわずかな発赤など微細変化を把握するのに優れている.
 内視鏡所見は病期によって急性期と慢性期,後者はさらに活動期,略寛解期,寛解期に区別できる.急性期ではアフタ様びらん,点状出血や発赤がみられる.慢性期は炎症の有無によって活動期と寛解期に分類できる.活動期で軽症の場合では軽度の浮腫,発赤,びらんがみられ,わずかに易出血性を呈する.中等症,重症になるとその程度が著しくなり,時に下掘れ潰瘍,炎症性ポリープが出現する.
 活動期と寛解期は明確に区別できるものでなく,中間期ともいえる略寛解期がある.活動期の炎症はほぼ消退しているが,わずかに発赤や浮腫が残った状態である.
 寛解期も活動期の重症度に応じて所見が異なる.軽症例では健常粘膜と区別できないまでに回復する.中等症では血管透見像に異常が残るが,発赤,びらん,易出血性はなく,腸管の変形を残さない.重症では炎症性ポリープがみられたり,腸管腔の狭小,皺襞集中などの変形を残す.

【4】生検病理組織学的所見:活動期には炎症の程度に応じて炎症性細胞浸潤,胚細胞の減少,陰窩膿瘍などの所見がみられる.


確定診断のポイント
 注腸X線検査や内視鏡検査で本症に定型的な所見を得ることによって,確定診断は容易であるが,他の炎症性疾患を鑑別するために,便の細菌検査が不可欠である.


鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
【1】Crohn病
@病変範囲はskip lesionをきたす.
A縦走潰瘍,敷石像,瘻孔形成が特徴的な炎症所見である.
B肛門部病変を高率に伴う.小腸や上部消化管にも病変を伴うことがある.
C生検で非乾酪性肉芽腫を証明する.

【2】腸結核
@回盲部に好発する.
A活動期には輪状潰瘍が特徴的である.治癒期には右半結腸の独特な変形,回盲弁の破壊,萎縮瘢痕帯などがみられる.
B生検で乾酪性肉芽腫を証明する.糞便や病変部から結核菌を証明すれば確定的であるが,しばしば陰性となる.
CPCR法など分子生物学的診断法も有用である.

【3】アメーバ赤痢
@直腸,S状結腸,盲腸に好発するが,全大腸に炎症が波及することもある.
A境界不明瞭な汚い潰瘍,浮腫,発赤など多彩な病像を呈する.
B糞便,生検組織からアメーバ原虫を検出する.また血清学的診断法も価値がある.

【4】カンピロバクター腸炎
@潰瘍性大腸炎に類似した炎症像を呈するが,病変範囲が広い割には局所の炎症の程度ははるかに弱い.
A経過が速やかであり,数日間で炎症は消退する.
B糞便の細菌培養でカンピロバクター菌を検出することが確定診断につながる.


予後判定の基準
【1】病変範囲が広い例,重症度の高い例は治癒が遷延することが多い.
【2】小児期に発症した例は難治性であることが多い.


合併症・続発症の診断
【1】局所的合併症として大腸癌の発生が重要である.慢性持続型で,発症後,数年を経過した例では厳重にサーベイランス内視鏡を行う.
【2】全身的合併症はさまざまであり,専門医と協力しながら診断と治療を行う.


手術適応のポイント
【1】絶対的適応:大量出血,中毒性巨大結腸症,大腸癌合併など.
【2】相対的適応:難治性で社会復帰が困難な場合,著しい狭窄をきたした場合など.